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【病気の起源】

 人間はなぜ病気になるのか。文明の進歩・社会や環境の急激な変化が一因とのこと。進化から病気の起源を探る。

飢餓と肥満.
 世界保健機関(WHO)によると、この40年間で肥満は急増し、世界で10億人とのこと。
 先進国は疎か、途上国でも肥満が増えており、様々な病気になるリスクが懸念されている。増加の主因は、脂肪や糖分の取り過ぎ。
 その背景には人類の進化の歴史がある。約30万~20万年前に誕生した現生人類のホモ・サピエンスは、約1万年前に農耕を始めるまで、長く狩猟採集生活を送ってきた。
 狩りには失敗もあり、飢餓と隣り合わせの過酷な日々だった。
 希に大きな獲物を仕留めた時、エネルギーを体内に溜め込んでおくため、エネルギー源である脂肪を体に蓄積する能力が高まったと考えられる。
 進化には長い年月がかかり、現代人のゲノム(全遺伝情報)は狩猟時代と基本的に変わっていない。
 我々は今、古代人の遺伝的プログラムを持ったまま飽食の時代を生きており、飢餓を乗り越えるサバイバル能力が仇となり、肥満が増えている、
 環境や生活の急激な変化に人間の体はついていけず、不都合が生じて“文明病”を招いた。

進化に伴う病気.
 世界的に増えている高血圧症も、進化と深い関係がある。
 人類は熱帯のアフリカで獲物を追っていたので、汗をかいて体温を下げ、暑さを凌ぐ能力を獲得した。
 だが、汗をかくと塩分が失われる。塩分は体内の水分や血液の量を増やし、血圧を高める。失うと血圧を保てず脱水症にもなってしまう。
 このため人は、塩分を補う必要が生じ、体に塩を溜め込む能力が進化した。こうして、高血圧との付き合いが始まった、

 進化に伴う病気は、二足歩行によっても生じた。四つ足から直立姿勢に変わった結果、骨格にかかる体重の負担が増え、腰や膝の痛みという問題が生じた。内臓の重みを支えるため骨盤は変形し、難産になった。
 血液を頭に送りにくくなり、立ち眩みが起きる。
 食べ物が気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)は高齢者に多いが、これも直立によって喉の形が変わったためだ。人は二足歩行にまだ適応し切れていないように見える。
 だが自由になった両手で道具を作り、喉の変形によって言葉を話せるようになった事を考えれば、払った代償よりも利益の方が遥かに大きかった、と言えよう。

心も進化.
 人の心も進化の影響を受けている。東北大の河田雅圭(まさかど)教授(進化学)らは、ゲノムを解析し、初期の人類は不安を感じ易い方向に進化した事を見いだした。
 河田教授は、「狩猟生活では、明日は獲物が取れないかも知れないと飢餓への不安を感じる事が行動につながり、生存に有利に働いた可能性がある」、と話す。
 興味深い事に、人類がアフリカの外に出て行く“出アフリカ”の頃になると、逆に不安を感じにくくなる進化が起きた。未知の場所に向かう旅は挑戦的で、勇気が必要だった筈だ。不安が強ければ航海などできなかったであろう。
 不安を感じにくい遺伝子は、現代人も受け継いでいる。
 九州大の早川敏之・准教授(自然人類学)らは、遺伝的要因とストレスによって発症する統合失調症に着目。出アフリカによる移住が、人類の大きなストレスになった事を明らかにした。
 故郷に留まったアフリカ人よりも、“移民”としてアジアや欧州に向かった人々の方が、ストレスに強いタイプの遺伝子を持っている事も分かった。
 移住先で未知の先住民と遭遇し、交流するのはストレスを伴うが、それに耐えられる人の方が異文化交流によって新たな技術や知識を学べるため、生存上有利だったと考えられる。
 早川教授は、「定住や農耕が始まると社会が複雑化してストレスが増え、統合失調症が生まれた。発症率は文明の発展に伴い高まったと見られ、その引き金は大都市化が起きた産業革命だったのではないか」、と話す。

 人類は今日、急速なグローバル化やデジタル技術の進展に伴い、社会構造が劇的に変わった。それは心身の健康にも様々な影響を及ぼすだろう。進化と文明の関わりを俯瞰的に捉え、将来に備える事が一層重要になるだろう。


★産経ニュース『【テクノロジーと人類】(10)病気の起源 進化が招いた「文明病」』(2022/9/25)、より.
★上記へのリンク https://www.sankei.com/article/20221002-VMYWEQFADZJ2NDBANQLERNIZUM/

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