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【中国は『大国』ではない】

 ペロシ米下院議長が今月初めに台湾を訪問した。
 中国専門家のほぼ全員が、「ペロシ氏が訪台すれば、世界の終わりが来る」、と言わんばかりの反対声明を出した。米中の核戦争勃発を懸念したのだろう。
 だが中国は、大規模な軍事演習で対抗しただけで、台湾情勢に本質的な変化は何も起きていない。

中国は、経済制裁に脆弱.
 中国には、戦争に踏み切れない特殊な事情がある。
 実は中国、食糧禁輸を中心とする経済制裁には脆弱なのだ。
 農業専門家の間では常識だが、多くの国際問題専門家が知らない事実がある。中国が近年、植物性タンパク質の生産に大々的に取り組んでいる、という事実だ。
 例えば中国は、ウズベキスタンやネパールでの大豆栽培に投資している。習近平・国家主席が数年前から唱え始めた『食糧安全保障』の一環としてだ。
 中国では大豆の商品価値が低いので転作が進まない。有事の際、国際制裁で海路での輸入が止まった場合に備え、家畜や家禽のエサとして不可欠な大豆を少しでも陸路で確保しようとしている。
 それほど中国は、食糧制裁に脆い。多くの米国の同盟諸国は中国絡みの有事に際し、中国に対する直接的な武力行使に慎重だとしても、食糧禁輸なら応じる事ができよう。

中国は、『大国』とは呼べない.
 ペロシ氏の訪台で『台湾海峡危機』を叫んだ専門家や記者たちは、中国が『完全な大国』ではない、という事実を理解していない。
 大国の定義とは何か。大国とは、戦争に関わる全ての行為を自力でまかなえる国だ。食糧の自給で深刻な弱点がある中国は、大国とは呼べない。
 多くの専門家は中国の弱点を見過ごしている。一方、自国の弱点を理解する習氏は、外国に弱点を悟られないように最近は、食糧安保に関し発言を控えている。

中国の失敗、イロイロ.
 中国は1990年以降の経済発展で、沿岸部の農地や耕作可能な土地を大規模工業地帯として開発してきた。
 2000年代に入り、こうした政策が重大な誤りだと気付いた中国当局は、農地転用を厳格に制限する法律を作った。それでも農地は減り続け、十分な量の大豆を生産できないままでいる。

 中国は海洋国家を目指し、多数の艦船や地対艦ミサイルを整備し、周辺海域への強力な戦力投射が可能になった。
 しかし船だけ作っても、中国は海洋国家になれない。
 海洋国家の存立には、船の寄港・修理・補給などを受け入れる同盟国が必要だ。
 米国が太平洋で覇権を確立しているのは、同盟国の日本とオーストラリアという『巨大な不沈空母』がいるためだ。中国は東・南シナ海を押さえたとしても、太平洋ではその先の足掛かりが全くない。

 習氏は秋の党大会で党総書記3期目続投を目指し、終身体制を視野に置いている。
 しかし、中国が、ペロシ氏の訪台を阻止できなかった事に加え、ハイテク企業の人員整理などを受け、今年7月の若者の失業率が約20%に達し、社会的不満が高まっている事を勘案すると、習氏の終身権力構想は盤石とは言い切れない。

 国際情勢分析の専門家や情報機関は、同盟国がおらず、海洋国家になれず、ましてや『世界的強国』には程遠い中国を適切に評価するよう努めねばならない。


エドワード・ルトワック氏.
 米歴史学者。米国家安全保障会議(NSC)などでコンサルタントを務め、現在は政策研究機関『戦略国際問題研究所』(CSIS)上級顧問。安倍晋三・元首相に戦略に関して提言していた。1942年生まれ。

●「中国は大国でない」との言、なるほど。秋の共産党大会、習氏の動静に注目。


★産経ニュース『【世界を解く-E・ルトワック】中国は「真の大国」ではない 戦争阻む食糧自給』(2022/8/28)、より.
★上記へのリンク https://www.sankei.com/article/20220828-5ST6XPEEVFKETA4W27WWBGYSF4/

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