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【脱炭素化、石炭から水素を造る】

 オーストラリアのメルボルン東方150kmにある炭鉱地区・ラトロブバレー。19世紀から石炭を採掘し、電力産業も盛んな同地区で、『脱炭素化』の切り札・水素を軸にした世界初のプロジェクトが始まった。
 本プロジェクトは、現地で未利用のまま豊富に存在する石炭から水素を製造し、約9,000km離れた日本に運ぶ、壮大なサプライチェーン(供給網)の構築を目指す実証事業で、J-POWER(電源開発)、川崎重工業、岩谷産業、シェル・ジャパンの4社が設立した『技術協同組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)』が中心となって進められる。

利用の目処なき『低品位炭』を、クリーンエネルギーに転換.
 使われる石炭は褐炭(褐色石炭)で、現地ラトロブバレーの埋蔵量は、日本の総発電量の240年分を賄える程の豊富な資源量だ。
 褐炭は安価だが、炭素含有量が少ない上、水分含有量が50~60%と多く、輸送や発電の効率が悪い。そのため、需要は炭鉱近くの発電所のみに限られ、ほぼ未利用の『低品位炭』とされている。
 この実証事業では、現地で未利用資源である褐炭から水素を製造して液化し、日本へ輸送する計画だ。年内に現地の基礎工事に入り、2020年に試験運転を開始する予定。

水素エネルギー活用の課題..
 パリ協定発効後、温室効果ガス削減に向け、『脱炭素化』への動きが広まっている。脱炭素化の実現には、再生可能エネルギー・化石燃料利用の脱炭素化・水素エネルギーの活用など、多様な組み合わせが欠かせない。
 その1つである水素(H2)は、酸素(O2)と化学反応することで発電し(所謂、燃料電池)、排出されるのは水(H2O)のみ。発電時に二酸化炭素(CO2)など、温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギー源だ。
 しかし課題もある。現在の水素製造方法は、天然ガスなどを改質するのが主流で費用が嵩む。そのため、供給業者が投資に及び腰で、供給体制が整わない。一方、燃料電池車(FCV)の普及が進まないなど需要の拡大も見込めず、大量生産による費用低減は難しいのが現状。

褐炭を『ガス化』し、安価な水素を製造.
 ところで、ガス化の仕組みはこうだ。褐炭を細かく砕き、酸素と共にガス化炉に噴出。炉内で1,000度以上に加熱すると、微粉炭の主成分の炭素(C)が水分(H2O)や酸素(O2)と化学反応し、主に水素(H2)と一酸化炭素(CO)の可燃性ガスになる。このガスから水素を取り出し、マイナス253度で液化する。
 本事業について、J-POWERの小俣浩次・技術開発部ガス化技術担当部長は、「安価で、未利用のまま豊富に存在する褐炭をガス化することで、水素を最も安く製造する有望な方法の一つ」、と指摘する。

目標は、CO2フリーの水素製造.
 水素は発電時にCO2を排出しないが、石炭をガス化して製造する際、CO2の排出は避けられない。
 そこで此の実証事業では、発生するCO2を分離・回収し、長期間貯留する『CCS技術』も併せて開発する。CCS技術とは、化学反応を利用して排ガスからCO2を分離し、高純度で回収する。それを圧縮機で、深さ1,000m以上の地層の砂粒の隙間に封じ込め、実質的にCO2排出ゼロを目指す技術だ。
 実際のところ、ラトロブバレーから約80km先の沖合には、枯渇しかけた海底油田があり、大規模な貯留容量が見込まれる。ラトロブバレー沖でCCSが可能となれば、日豪の水素サプライチェーンはCO2フリーを実現できる。

脱炭素化の実現に向けた技術開発.
 J-POWERは、国内でも中国電力と共同で、国立研究開発法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構の助成を受け、クリーンコール技術の商用化に向けた実証事業を進めている。
 IGCC、つまり石炭ガス化複合発電とは、石炭をガス化して生じる可燃性ガスを燃焼させて発電すると同時に、排熱も用いて発電し、高い効率で石炭からエネルギーを得ることで石炭使用量を減らし、CO2排出削減に繋げる技術だ。このIGCCのみならず、CO2分離・回収技術を組み合わせた技術、ガス化により発生した水素を燃料電池に活用して発電効率を高める、『IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)』の小型化などなど、脱炭素化の実現に向けた技術の開発も進める予定。
 J-POWERの小俣氏(前述)は、「IGCC・IGFC・CCSはそれぞれ、技術レベルや商用化の見通しが異なる。それでも脱炭素化の実現のためには、複数の選択肢を持つことが重要だ。今回の褐炭による水素製造もその一つ。将来を見据え、脱炭素化の選択肢を一つでも増やすため、これからも技術開発に取り組みたい」、と前向きだ。


★産経ニュース『脱炭素化の新たな選択肢 ~石炭から水素の安定製造目指し、日豪約9,000キロを結ぶサプライチェーン構築へ~ 』(2018.9.28)、より.
★上記へのリンク https://www.sankei.com/life/news/180928/lif1809280009-n1.html

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